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2025/07/03 20:14

光の届かない倉庫の奥に、長い間しまわれていた布がある。
名前も価値も、もうとっくに忘れられて、
誰にも気づかれずに折りたたまれていたそれを、そっと取り出す。
その布には、誰のものともわからない手跡が残っている。
焦げ跡、ほつれ、染み、退色。
それらが計画されたかのように、美しさを帯びる瞬間がある。
- それを洗い、裂き、ほどき、縫い直す。
- 余白を残しながら、静かに進めていく。
そうして仕立てられた服には、
どこか冷たい質感がある。
過去の記憶を閉じ込めたまま、声ひとつ出さずに立っている。
けれど目を凝らすと、
わずかな継ぎ目に、時間が編み込まれているのがわかる。
それを着る人の身体に沿って、過去がまた歩き出す。
名前のない記憶を、服というかたちにして。